わが家の唐揚げは祖母が作る、真っ黒でしょうゆ辛い唐揚げだ。祖母は根っからの姉御肌で、勝ち気で人情に厚く、豪傑で声が大きい。とても愉快な人だ。夕飯時にきょうだいげんかをしていると、「泣くなら食べるな」とよく叱られた。
そんな祖母は平成２４年、昼寝中に自室の布団の上で、ピンピンコロリと逝ってしまった。その日からわが家で唐揚げを作ることもなくなった。
あれから１０年。ふと思い立って、唐揚げ用のもも肉をカートに入れた。果たしてうまく作れるのだろうか。うろ覚えでお酒とおしょうゆで下味をつけ、それから唐揚げ粉をまぶし、もも肉を揚げてみた。火の通り具合こそ微妙だったものの、二度揚げした真っ黒なそれは、まさしく祖母の味だった。もう決して口にすることはないと思っていた唐揚げと１０年ぶりに再会したのだ。
おいしいかおいしくないか、そんなことを口にするより先に涙が出てきそうだった。早くお仏壇にあげなくちゃ。
きっと祖母は「いいじっか、いいじっか」と小躍りしてくれるだろう。きっと祖父は「おめえさんが作ったのか。たいしたもんだな」と目を細めてくれるだろう。まるで目の前にいるかのように、声が聞こえてくるかのように、たやすく想像できる。
けれども「泣くなら食べるな」と叱られてしまうので、私は泣くことができない。
一口でこんなに胸がいっぱいになるのだから、私は祖父母から愛されていたんだな、ああ、今も愛されているのか、いや、きっとこれからもずっと愛され続けるのだよ、と真っ黒な唐揚げが教えてくれた。
鎌田祥子（３１） 千葉県君津市
October 23, 2022 at 03:00AM
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【朝晴れエッセー】真っ黒唐揚げ・１０月２３日 - 産経ニュース
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