手抜きだと思う料理は何か
「Go To トラベル(Travel)」や「Go To イート(Eat)」も始まり、外出する人が増えています。ただ、新型コロナウイルスの感染が拡大する前の状況にはまだ戻っていません。
おうち時間が増えて、自宅で料理する機会も多くなっていますが、料理を用意することは、労力の大きさに差こそあれ、手間がかかります。そのせっかくつくった料理が手抜きだといわれたら、どのような気分がするでしょうか。
以前放送された日本テレビ「スッキリ」で「手抜きだと思う料理は」という街頭インタビューがありました。
その中で、ある男性による回答が炎上したのです。
唐揚げは手抜き料理
男性は手抜き料理という質問に対して唐揚げと答え、その理由を「揚げるだけだから」「ジャンクフードなので手抜き」と説明しました。
スタジオの出演者からは「唐揚げでも工程がある」「皿に盛り付けたり、出したりしてもらえるだけでありがたい」と厳しい批判が起こります。
番組を観た視聴者やこれを話題にした記事を読んだユーザーから多くの反響があり、Twitterのトレンドワードでも1位に急浮上。テレビでさらに取り上げられるなどして、大きな話題となりました。
この件は、料理や食事に関して様々な問題をはらんでいるので考察していきたいと思います。
手抜きとは
「手抜き料理」と表現されていますが、そもそも手抜きとはどういう意味でしょうか。
言葉の意味を調べると「やるべき手数を省くこと」と説明されています。
これに則れば、「手抜き料理」とは、本来は行うべき作業であるにもかかわらず、それを省いてつくられた料理であるということになるでしょう。
唐揚げの作り方
では、唐揚げは本当に手抜き料理なのでしょうか。
唐揚げの作り方はたくさんありますが、代表的なものとして次の工程を紹介します。用意する材料は次の通り。
ジューシーな鶏もも肉を用いるのが一般的ですが、鶏むね肉を用いることもあります。酢の成分でお肉をやわらかくしたり、味わいに深みをもたせたりするために、マヨネーズを加えていますが、必須ではありません。
これらの材料を用いて次のように調理します。
材料をカットしてマリネして下味を付け、それから衣をまとわせて揚げるという手順なので、特別なところはありません。目安となる調理時間は20分。
二度揚げは他のレシピでも散見されるところですが、家庭料理であれば一度だけ揚げるという人も多いでしょう。
唐揚げは手抜き料理なのか
手抜き料理とは、行うべき手数を省いた料理とされているので、先に紹介した工程を大幅に省けば手抜きといわれても仕方ありません。たとえば、鶏もも肉を切ったら、下味もつけず、衣もまぶさず、そのまま素揚げしていれば、手抜きをしたといわれても否定できないということです。
ただ、あまりにも調理を省略した場合には、そもそもそれが一般的に認識されている唐揚げであるかどうか、という議論は必要になります。
そして次が重要なところです。
もしも手抜きした唐揚げをつくったとしても、それはあくまでも、一般的な工程でつくられた唐揚げに対して、手数が省略された手抜き唐揚げとなるだけで、唐揚げそのものが手抜き料理であるというわけではありません。
唐揚げの調理は、食材を切り揃え、味をつけ、熱を加えるという工程から成立しています。混ぜ合わせるだけ、載せるだけといった料理と比べれば手数は多いです。
人類による調理の始まりは肉などの食材を火で焼くことでした。食材に熱を加えて化学的な変化を起こし、より食べやすくしたり、より食味を高めたりする工夫は、食文化の文脈においても重要な役割をもちます。そういった意味からすれば、熱を加えて調理されたものは、知性を伴った立派な料理であるといってもよいでしょう。
唐揚げに限らず揚げ物は、調理前の準備も調理後の処理も大変なので、つくりたがらない家庭も少なくありません。調理前後の大変さと20分程度の調理時間を鑑みれば、唐揚げは手抜き料理であるといわれる理由はないでしょう。
ジャンクフードとは
唐揚げは「ジャンクフードなので」ともいわれていました。
では、ジャンクフードとは具体的にどのようなものでしょうか。
これによると、工場で膨大に生産されたり、体によくない要素で構成されたりする食品がジャンクフードであるといえます。
唐揚げの栄養価は高い
唐揚げは本当に栄養価が低いのでしょうか。
鶏肉はもともと高タンパク質かつ低カロリーであり、それを用いた唐揚げはアスリートにも人気があるほど。健康にとても気を使う運動選手にも食べられていることを考慮すれば、唐揚げはむしろ栄養価の高い料理であると考えてよいでしょう。
次のように述べられた記事もあります。
吸油率は、天ぷらが15~25%、フライが10~20%に対して、唐揚げは6~8%と抑えられているのでヘルシーです。全体的なカロリーに関しても、唐揚げはハンバーグやトンカツよりも少ないといいます。
これらを総合してみれば、家庭でつくられる唐揚げは、大量生産された工業製品ではないことに加えて、ヘルシーで栄養価も高いので、決してジャンクフードであるはずがありません。
ファストフードの氾濫
唐揚げが手抜き料理でもジャンクフードでもないことを考察してきましたが、この件は別の問題もはらんでいます。
それは、食べる側の意識です。
人間は生きるために、食べていかなければいけません。太古の人類は狩猟採集生活をしており、日々の食べるものを探すことに時間を費やしていました。
こういった歴史に思いを馳せてみれば、ダイニングの椅子にただ座っているだけで、温かくて安全でおいしい料理が提供されるだけでも、幸せであると思わなければなりません。ましてや、家族がつくった手料理であれば、なおさらのことでしょう。
街には牛丼からハンバーガー、ラーメンや定食などを提供するファストフード店が林立しており、そこでは、廉価でそれなりにおいしく、お腹を満たす食べ物が提供されています。
あまりにも手頃かつ簡単に食べ物が得られるために、野菜が育てられたり、家畜が肥育されたりすることを意識しなくなったり、食材が調理されたりする様子を想像できなくなったりしているのではないでしょうか。
食育の不足
食育の不足も大きな要因であるように思います。食育が不足しているために、食材や料理の背景、食文化を学ぶ機会がなく、食に対して想像が及ばないのです。
たとえば、和牛のステーキがおいしいことは知っていても、和牛は何種類あるのか、日本に何頭いるかなど、知っている人は多くありません。これでは和牛の素晴らしさを海外の人々に伝えることはもちろん、繁殖農家や肥育農家が抱えている問題など想像できないでしょう。
日本が世界に誇れる和牛でさえ、このような状況であれば、唐揚げに敬意を払うことなど難しい注文です。
食べることに対するありがたみが低下してしまい、食材やつくり手に対する感謝が起こらなくなってしまっているのではないでしょうか。
番組の企画に対する疑問
番組の企画に対しても疑問があります。
冷凍餃子が手抜きであるかどうかSNSで議論が起きたので、「手抜きだと思う料理」をインタビューしたということです。しかし、「手抜きだと思う料理」を集計したところで、一体何の役に立つというのでしょうか。
番組放送時には「Go To トラベル」は既に開始されていましたが、「Go To イート」はまだ始まっていませんでした。今よりも、外食する雰囲気が落ち込んでおり、自宅で食事する機会が多かったと思います。
つくり手としては、どの料理が回答されたとしても、ネガティブな気分になることはあっても、前向きな気持ちにはならないでしょう。回答された料理をつくったらいけないと感じてしまい、より負担に感じてしまうだけだからです。
自宅で料理をつくる機会が多い時期だからこそ、「つくってもらって嬉しかった料理」などをインタビューした方が、つくり手を励ますことになって意義があったように思います。
料理の目的
「人間は料理をする」(NTT出版)などを上梓するアメリカのフードジャーナリストであるマイケル・ポーラン氏は「料理の目的は咀嚼する回数を減らすこと」であると看破しました。
そういった洞察をもとに再考してみれば、料理は食事を効率化させるための手段であることは明白。つまり、栄養と愛情さえ内在していれば、手抜き料理は最も効率的に料理の目的を達成できていると、いえるのではないでしょうか。
「唐揚げは手抜き料理」炎上事件は、コロナ禍で食生活が制限されている中で、人類の食文化に対して、料理とは一体何であるのかという、真の問いを突きつけたように思えてなりません。
October 18, 2020 at 03:05PM
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