【おいしい思い出 Vol.21】クックパッド初代編集長であり、自他共に認める料理好き・小竹貴子のエッセイ連載。誰にでもある小さな料理の思い出たちを紹介していきます。日常の何でもないひとコマが、いつか忘れられない記憶となる。毎日の料理が楽しくなる、ほっこりエピソードをどうぞ。 ■ ■ ■
唐揚げは、あれもこれもコスパがいい
とりあえず揚げちゃえば、料理はみんなおいしくなる。かなり乱暴だけど、概ねあっていると思います。 おいしい理由は、食感最高、香り最高、そしてうまみの凝縮。健康上の理由で揚げ物を控えているという人には出会うけれど、揚げ物が大嫌いという人はあまり聞かない。カロリーさえきにしなければ、みんな大好きなんですよね、揚げ物。 そして友達、特に男性と大好きな揚げ物はなんだという会話をはじめたら、いつまでもネタがつきない長い会話になりそうです。 ちなみにわたしの大好きな揚げものはというと、なんといっても唐揚げ。あのカリカリッとした食感、熱々のものを食べた瞬間から口のなかにジュワッと広がるお肉のうまみ。そして、気がつくと何個も食べてしまっている……。 わたしが子どもの頃、家の食卓には唐揚げが並ぶことがとても多かったです。とても大きな大皿にレタスと山盛りの唐揚げがどーんと置かれる。他のおかずはというと、正直あまり覚えていないのですが、トマトときゅうりを切っただけのシンプルなサラダにいつもの味噌汁とごはんという感じ。 父と弟もみんな唐揚げが大好きです。母親は鶏肉は苦手なのよねと言っているのに、なぜか理由は定かではないが唐揚げは大丈夫。大きな声でいただきますをしたあとには、家族みんなテンションが上がり、弟とどっちがたくさん食べられるかを競うかのように、ガツガツというかもりもりと食べていました。 子どもの頃は食べることが何よりも幸せだったので(いまでもあまり変わらないですが)、晩ごはんに唐揚げが登場した日は、その日の夜にベッドのなかで「あー今日唐揚げって幸せ」なんて思って眠りにつけました。夢にも出てきちゃったかもしれない。 揚げ物は食べ手もつくり手もうれしい、家庭の神料理 それからすっかり大人になったいまでも、唐揚げはわたしのなかのパワーフード。 仕事で忙しくてドタバタと慌てて会社を出て家路に向かうとき、そしてなんだかわからない疲れに襲われているときには、今晩は唐揚げを作ろうと思ってしまう。 自分で家族の食卓メニューを決めることができるのは、つくり手特権だなと改めて思います。きっと我が家の唐揚げが食卓に上がる日に母親がそんな気分になっているとは、子どもたちは知らないだろうけど。 実は揚げ物は、料理をする立場としては超コスパがいい、つまり超便利おかずだと思っています。 え? ほんと? と、意外に思う人は多いかもしれないですね。というのは、揚げ物というと「面倒だから、あんまり作らない」という話をわたしはよく聞くから。ふふふ、でもそれは違うのです。 確かに、使ったあとの揚げ油の処理や、揚げ物をしたあとのコンロまわりに飛び散った油の掃除は確かに大変です。わたしもあの油のベタベタを見ると、なんとなく気持ちをそがれてしまいます。でも、それだけじゃないですか。 とりあえず、酒と卵につけこみ粉をはたいて揚げてしまいます。煮物などに比べてとても調理時間も短く、わたしのなかでは時短料理です。炒め物のように野菜がぺたっとしたり、火加減に悩んだりしなくてもいい。時間と温度を測るだけでいい。忙しい時に唐揚げというのは、理にかなっていると自分で思っています。 あと何より家庭の揚げ物だと、油は新しいから後味もよく、食べたあとにもたれることは少ないから、買ってくるよりずっとヘルシーなんですよね。 唐揚げ好きなわたしは、最近はいろいろなバリエーションを楽しんでいます。小麦粉を使ったしっとりやわらかな唐揚げ、これは冷めてもおいしいので子どものお弁当のときはこの作り方に。カリッと固めに仕上がる片栗粉を使った唐揚げは、揚げたてをすぐ食べちゃうというときにぴったり。あとはネギソースをかけたりする唐揚げも。塩麹をもみこみうまみを更にアップした唐揚げは、ちょっと和風な味つけのおかずが並ぶときにおすすめ。 クックパッドもたまに見て、新しい唐揚げバリエをふやしていますが、わりと適当にあつかっても失敗することなく楽しめるのが唐揚げアレンジの楽しみ。みなさんのおすすめもぜひ知りたいです。 あとこれは超マニアックなので、わかってくれる人いるかどうかわからないですが、言っちゃうと、晩ごはんに作って残った唐揚げを薄めためんつゆで煮て卵とじした唐揚げ丼。これ最高なんです。リモートワーク中に食べるお気に入りランチメニューでした。 味よし、時短、そしてみんな大好き。三方よしの唐揚げ、これは家庭料理の神料理だと信じています。 ■ ■ ■ 『おいしい思い出と15のレシピ』(電子書籍) クックパッド初代編集長・小竹貴子によるお料理エッセイ。子どもの頃に好きだったもの、懐かしい故郷の味、恋人に初めて作った料理、自分の子どもが好きなもの。さまざまなテーマで料理とそれにまつわるエピソードを綴っています。思わず作ってみたくなるオリジナルレシピも紹介。読むとクスッと笑えたり、自分の思い出を振り返ったり、誰かに会いたくなったり。心がちょっとあたたかくなる1冊です。 小竹貴子 クックパッド株式会社コーポレートブランディング本部長。1972年、石川県金沢市生まれ。関西学院大学社会学部卒業。株式会社博報堂アイ・スタジオを経て、2004年に有限会社コイン(後のクックパッド株式会社)入社。編集部門長を経て執行役に就任し、2009年に『日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2010』を受賞。2012年、同社退社。2016年4月から再びクックパッド株式会社に復帰、現職。現在、クックパッドニュースにて『おいしい思い出』、ForbesJAPANにて『それ、「食」で解決できます!』を連載中。また、フードエディターとして個人でも活動を行っている。
February 25, 2021 at 06:30PM
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